おさる獣医師の動物園歳時記
   【 七五三編 】

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です


世界サル類動物園アジア館にて
子どもの成長を見守るチベットベニガオザル
子どもの健やかな成長を願う気持ちはサルも人も同じ
(平成16年11月撮影)


サルの名前や分類は、生息地や身体の特徴を的確に表しています。
しかし、中には首をかしげたくなるものもあります。

例えばチベットベニガオザルは実はチベット地方には棲んでおらず、
中国中東部四川省を中心に生息しています。

また、ベニガオというほど顔は紅くはなく、
写真のように黒みがかった褐色をしています。

分類学上、オナガザル科に属しますが、ここにも矛盾があります。
実物の尾は短くて、決してオナガではありません。

名前や分類はさておき、社会の仕組みについては研究が進んでいます。

ニホンザル同様、複雄複雌の群れを持ち、
大人になった雄ザルの多くが群れから出て行くことがわかっています。

同じ群れ構造をもつニホンザルとの違いは、大人のサルたちの子ザルとの関わり方です。
頻繁に大人雄が子ザルを抱き、子ザルをはさんで、大人雄同士が抱き合ったりもします。
これらのことは、大人雄が緊張緩和のために、子ザルを利用しているのだと解釈されています。

なお、群れを離れる年齢は、ニホンザルに比べ、
二歳ほど高いとされていますが、この理由はよくわかっていません。

子離れをしないのか?乳離れが遅いのか?サルの母親に聞いてみても答えてはくれません。


ヒトの社会では、11月は七五三で神社がにぎわいます。
千歳飴を片手に、着飾った子どもを挟んで、お父さんはビデオ撮影に忙しくなります。

3歳、5歳、7歳と成長の区切りに、元気に育ったお礼をするため、
神様にお参りをするのが七五三のいわれ、だそうです。

野生のサルの世界では、子どもの死亡率は高く、全ての子どもは育ちません。
死んだ子どもを放さず、ミイラになっても持ち歩く母ザルがいます。

死産で生まれた赤ちゃんや、一人前になった子どもに対しては、
こうした行動はみられません。

したがって、サルに限って言えば、抱いて、授乳をすることが、
母性の発現の鍵になっている、というのが定説となっています。

七五三風景を目にすると、
子どもの成長を見守り、健やかに生きてほしいと願う気持ちは、
サルもヒトも共通しているのではないのかと思い、
同時に、スキンシップの大切さについて考えます。

(平成16年11月17日記)


この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は同カットですがフルサイズの写真を用いたり、新たな写真を加えています。またテキストは加筆修正を加えています。


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